局長室で近藤と土方が畏まって向かい合っていた。
 副長と局長が膝を合わせているなんてすわ大事件の幕開けか。そう思えるようなシチュエーションだ。
 しかし、内容は単なる恋バナだった。近藤の連れないおもいびと、お妙さんに関する話だった。

 悲しい事に、真選組における日常茶飯事でもあった。

「トシ、俺は手を変え品を変え何度もお妙さんにアタックしてきた」
 切り出したのは近藤だ。
「あんまり手も品も変わってなかったぞ近藤さん。全部同じベクトルだ」
 タバコをくわえた土方が突っ込みを入れる。近藤は道を決めたら一直線の猪タイプだ。
 本人は変えているつもりなのだろうが、はたから見れば全部一本道の上にある行動だった。
「だが、今だにお妙さんは俺を振り向いてくれない。そこで考えた! 俺のやり方が悪かったんじゃないかとな」
 近藤は土方の突っ込みを聞きもせず、あらかじめ自分の中にあったのだろう口上を続ける。
「そうか! ようやっとストーカーをやめる気になったのか」
 拳を握って力節する近藤に、土方の表情が輝く。

 真選組の局長がストーカーなど醜聞もいい所だ。大事にならないのは一重に妙がキャバ嬢で、近藤が上客だからだった。金払いが良くなければ、近藤などとっくに訴えられているだろう。
 いくら注意しても右から左に抜けてしまう愛の過激派にはほとほと手を焼いていたのだ。
 ようやく平和な日々が戻ってくるのか。土方は喜ぶが。

「いんや! 方法をがらりと変えてみる。トシ、お前、猿飛あやめという女を知っているか?」
「あぁ。変態で露出狂の女だろ。そいつがどうかしたのか?」

「俺はいままでお妙さんにありとあらゆるアタックを試みてきた。夜道でつけまわしてみたり、道場や室内に侵入してみたり、こたつにひっそり潜んでみたり、屋根裏からこっそり見守ってみたり!! だが、どれも功を為さなかった」
「それだけならべてるのに功を為せるまともな行動が一つもねぇってのは逆に凄いな」
「俺は気がついたんだ。アタックの方法が間違っているのではないかと。そんな時、その女忍者が俺の前に現れたってわけだ。蔑まれ縛られることを喜ぶあの女がな!! もちろんあの女忍者とお妙さんは違うと判っている。だが、同じ女性である以上、ひょっとしたらお妙さんにも縛られて喜ぶ側面があるのではないか!? なぁトシ、お前もそう思わないか!!!???」


 返事すらできず土方の目の前が真っ暗になった。


「これを見てくれ!」
 土方が驚きに硬直していると知らず、近藤は段ボール箱を取り出した。
 中にひしめいているのは、怪しげなピンクのローソクや縄、それに手錠、縄などの拘束グッズだ。

「準備は万端だ。トシ、俺はやるぞ! 今日こそお妙さんを振り向かせて見せる!! 隊士を集めて祝賀会の準備をしておいてくれ! じゃ、行ってくる!!!」

 段ボール箱を抱え、近藤が走り出した。

「ちょちょちょちょちょ、ま、待ちやがれゴリラァァァァアアアア――――――!!!」
 茫然自失で震天動地な事態に土方がようやく自分を取り戻し、彼もまた駆け出していった。





「よー、銀さん、今日は寄ってってくれないのかい?」
 馴染みの団子屋に声を掛けられ、銀時は足を止めた。
「よし、串十本貰おうかな。代金はツケで」
「あ、そこいくお嬢さん! 団子買ってかないかい? はやりのスイーツもいいけど、団子も捨てたもんじゃねーんだよ」
「あれ? おじさんが目を合わせてくれなくなったぞ。おーい。俺の声聞こえてる〜?」

 ぶんぶん掌を振って問いかけるものの、団子屋が反応してくれるはずもない。ツケの貯まりすぎたわが身を恨むしかない。
 声を掛けてきたのはそっちの癖によォ。八当たり気味に思いながら銀時はまた歩き出すのだが――――。


「近藤さん、マジ勘弁してくれ!! 頼むからやめてくれってばァァァァ!!!」
「大丈夫だトシ! 何も心配するな! 俺は今日こそ、今日こそ幸せを手に入れてみせる!!」


 聞きなれた声に足が止まる。

 猛牛さながらに鼻息荒く突進している近藤に、土方が抱きついて両足を踏ん張りとめようとしているのが見て取れた。


 びき、と銀時の全身に怒りの血管マークが浮かぶ。

 銀時は土方に恋情を抱いていた。
 だけど顔を合わせるだけで突っかかってくる相手だ。
 思いを告げたって叶うはずがない。墓場まで持って行くつもりでいる想いだった。
 想いを押し殺す覚悟は決めていた。
 喧嘩友達まで進展できればそれでいいのだと思っていた。

 男同士だから嫌悪されると思っていたわけではない。
 だって、土方は近藤と出来ているのだから。
 近藤だけに向けられる笑み、近藤だけをたてようとする甲斐甲斐しさからそう思っていた。
 それは大変な誤解で土方に知れれば問答無用に抜刀して襲い掛かってくることだったけど、銀時にとっては唯一の真実だ。

 長年連れ添った夫婦にも似た土方と近藤。ゴリラが執拗に妙を追っているのは、カムフラージュの一環なのだろう。本気で妙を狙っているならあの行動はありえなさすぎる。



 土方は近藤に組み敷かれて笑い彼に触れられるのを喜んでいるのだと、あふれ出そうな想いを押し殺していた。
 が。
 両手には拘束具やローソク、鞭を持って駆ける近藤と、必死に嫌がる土方を見て銀時の何かが切れた。

 よく見れば抱きついているのは土方の方だし、どこかへ向かっている男を止めているだけだと判るのだが、銀時は完全に近藤が土方に対してよからぬ事をしようとしていると思い込んだ。



「ゴリラァァァァアアアアアアアアアア!!!!!」

 銀時は片手に木刀を掲げ、高く舞いあがった。



 白夜叉から容赦の無い一撃を食らった近藤が気絶して地面に崩れ落ちる。
 近藤に手を出そうモンなら瞳孔を開いて襲ってくる男がふらりと立ち上がって、顔を押さえてうつむいた。
 涙の溢れそうになった瞼を押さえていた。

 「万事屋……、ありがとう、今回ばかりは頭を下げるぜ……。本当に、お前が居て良かった……!」

 ようはするに、「拘束グッズを使おうとすれば間違えなく近藤はお妙に殺される」「殺されはしなくても今度こそ確実に裁判沙汰」「イコール真選組の終わり」が防げたことに安堵して涙が浮かんだに過ぎない。

 が、「近藤に襲われそうな所を助けた」銀時からすれば、「SMプレイを強いられそうになったのを防いでくれた」安堵の礼だ。

「お前のお陰で助かった。何でも礼をするぜ。遠慮なく言ってくれ」
 土方にとって真選組と近藤は何よりも大切なものだ。
 それを守ってくれたのだから、いくら天敵の万事屋といえども無下に扱えはしない。何でも礼をするとは口先だけで言ったのではなかった。

 銀時は硬直した。
 何でも礼をする?
「――じゃあ、今日の夜、俺に付き合ってくれ。無理なこと言うつもりはねぇ。近藤にしてることをしてくれりゃいい」
 近藤と土方がどういう風に寝ているのか知りたい。
 例え一晩でも、その体だけでも傍に置きたい。

「――――――」
 土方は息をのんだ。
 近藤にしていることといえば、彼を敬い、彼の為に働くということだ。
 無職同然にぶらついている男を尊敬しなければならないなんて、土方にとっては苦行もはなはだしい。
「んな顔すんじゃねーっての。一晩だけだ。それ以上望むつもりはねー。何なら、時間制限してもいいぜ? 三時間? 四時間?」
「――三時間だ。一秒でも延長はできねぇ。それでもいいか」
「りょーかい。楽しみにしてるぜ大串クン」
「土方だ!!」

 土方は失神した近藤の首根っこを掴んで歩きだす。


 二人の決定的な思い違いが明らかとなるまで後5時間。



 そして。



 土方が美味しく頂かれてしまうまであと6時間半。




 



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