「どうしてそんな疲れてんだ? 捕り物でもあったのか?」

 いつものよう買い物袋を抱えて現れた土方を迎えた銀時は、怪訝に問いかけた。
 着流しを着た土方はいつにもましてぐったりとしている。

「いや、捕り物じゃねぇ……。何か知らねェが、総悟がやったら絡んできてよ……」
「総一郎君に絡まれるなんていつものことじゃねーの」
「抜刀だのバズーカ構えるだのはいつものことだけど、今日はやたらとのしかかってきたんだ。頭カラだが力だけはある奴だから押し返すのも一苦労だ」
「のし」

 中途半端に言葉を区切った銀時の表情が凍った。
 土方は銀時の横をすり抜け、新八に買い物袋を渡す。そして神楽を向いた。
「おい、怪力娘。総悟に余計なこと言うんじゃねぇぞ。あいつは俺を貶めようと虎視眈々としてる奴なんだからな」
「余計なことって何アル?」
「俺と万屋が……その、……してないって話したんだろ?」
「してないって、何をネ?」
「だから、その、あれだ」
「あれって何アルかぁ〜」
 にやにや笑って土方の顔を覗く神楽。土方は顔を赤らめてそっぽ向いて、わ、わかんだろうが! 昨日の話だ! と言い捨てる。
 純情男とセクハラ娘の間に銀時が間に割って入った。
「神楽、サド王子にんなこと話したのか」
「情報提供代は酢昆布二つアル。けど、昨日は珍しく追加もしてくれたネ。ずっこんばっこんしてないってのはなかなかいいネタだったアル」

 銀時は目元に影を落として、新八と神楽の背中を押した。
「新八、神楽連れて家に帰れ」
「「「え?」」」
 土方、新八、神楽の声がはもる。
「いいから、ほら、さっさと行けって」
 二人を万事屋から追い出してドアを閉め、鍵まで掛けてしまう。
「おい、飯どうすんだ?」
 土方が買ってきた食材を新八の手に持たせたまま二人を追いだした。
 この家の食材は常に神楽に食いつくされているから買い置きなどないだろうに。

「飯なんか食ってる暇ねぇ。それより大変な事が起っちまったからな」
 土方の手を引っ張って銀時が向かったのは寝室だ。
「おい?」
 ふすまを開けると同時に背中を押され、土方は万年布団の上に倒れ込んだ。
「何しやが、」
 文句を言い終らないうちに、銀時の手が土方の刀を遠くへ放る。

「お、」
 また言い終らないうちに邪魔された。
 布団の上に転がった土方の上に銀時が被さり、噛みつくようにキスをされて言葉を封じられた。

「……!?」
 キスは初めてではない。だけど、ちろ、と上唇を舌先で舐められて、土方は驚いて布団を蹴りキスから逃げた。
 逃げられはしたものの、銀時の掌は着流しの合わせ目から入り込み、直に体に触れてくる。

「な! う!? ちょ、ちょ、ちょっと待てェェエエ!!」
 ようやく何が起ころうとしているのか気がついた土方が、伸しかかってくる銀時の胸を押した。
「こここ、こんな事はしないっていうのが俺達のスタンスのはずだろう!? なんで今さら盛ってくんだテメェは!」
「そんな取り決めしたつもりござーせん! そもそもいい年ぶっこいた男二人が清い交際で居続けるなんて薄気味悪かったんだ。やっぱり、愛し合う二人には必要な行動なんだよこれは! いくら男同士だからって、三か月もたってんのに手を繋ぐのがせいぜいなんて俺たちぐらいのもんだぜ」
「他所はよそ、家は家ィィィ!!」
「恋愛はオカンルールの適用外です!!」

 だん、と土方の手が布団の上に叩きつけられた。
「この、クソ……ッ! 離せこの馬鹿力! う、ぐ……!」

 手首を拘束する手を押しかえそうともがくが、のしかかる腕は全く動かなかった。
 土方は自分と同等程度……どころか、体格差のある近藤さえ、腕力だけで抱え上げることができる。柔道の鍛錬をすれば背負い投げも簡単にできる。いくら銀時が体重すべてを乗せていても押しかえせるはずなのに、浮き上がりもしない。
 体重ではなく、腕力で押えこまれているのだろう。

 これが攘夷戦争の英雄の力か。
 彼の体に刻まれている歴史を感じて、憧憬に似た想いを感じるがそれどころではないとすぐに我を取り戻した。



戻る