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「うわぁあああああああああ」
万事屋に入ってくるなり土方は銀時の頬を殴りつけた。
「ななななんあ!!?」感情の起伏が少ない銀時も流石に仰天して舌が回らなくなっている。
「もうテメェ俺に触んなぁぁぁ! 俺もここにしばらくこねぇ! 死ね!」
吐き捨てると土方は有無を言わさず踵を返してしまう。
「うぉぉぉいい! いきなりなんだってんだテメーは! 顔合わせた途端殴り飛ばした揚句に触るな来ない死ねって格ゲーでも中々無ェぞこんなダメージ最強のフルコンボ! 理由を説明しやがれ!」
腕を掴んでどうにか止める。
土方は振り向きざまに瞳孔の開いた眼で殺気を込めて銀時を睨みつけた――が、それで怯むような相手ではない。説明しなければきつく掴まれた腕を解放されはしないだろう。
躊躇いはしたが、意を決して土方は口を開いた。
「総悟に、……って言われた」
口に出した途端、白い肌に赤が浮く。
「は? 聞こえねぇ。何だって?」
やっぱりこの子可愛いわー。とかいう幸せな気持ちの上に、まーたあのサド王子か。マジいい加減にしろよなあのクソガキという黒々した殺気が乗る。
「総悟に、「土方さん、最近綺麗になりましてねィ」って言われたんだよ!!」
「は?」
「屯所で隊士集めて会議やってる最中にんな事言われた俺の身にもなって見やがれクソマダオが!! テメーだ、テメーのせいだ! お前が日がな一日可愛いだのなんだのかんだの言い続けるから、俺の意識下に催眠術的な何かがしみ込んできて……そのせいで…………!」
ぶるぶる震える土方を胸に抱き、あやすように背中を叩く。
「綺麗になったんならいーじゃん。人って恋人から綺麗って言われ続けてたら輝いてくるもんなんだからなぁ。日夜綺麗、可愛い、って言い続けた俺の努力の賜物だ。礼言ってほしいぐらいだぜ」
「俺が死ねって言い続けたらお前死んでくれるのか?」
「あながち無いとも言い切れないからやめてね。俺こう見えても繊細だから」
「テメーの生き死になんかどうでもいい……。とにかく、もう俺、どんな顔して隊士の前に出りゃいいんだ……」
「うぉっと。なまじっか死ねっていわれるより、どうでもいいって言われた方が心にぐっさりきました。土方君を抱っこしてなかったら床に崩れ落ちてたねコレ」
口では悲しそうに言うものの、銀時は土方を抱きしめる腕に力を込めて、形のいい頭を胸に抱き込み黒の髪の毛に鼻先を埋めてぐりぐり頬ずりしていた。
「あー、いい匂い〜」
その声はとてつもなく幸せそうで、たった五分にもならない応酬に、ふたケタに達しそうなぐらい「死ね」といわれているのに全く堪えていない。
土方の右腕が閃いた。
容赦のない拳骨を叩き落され、銀時が玄関先に崩れ落ちる。
「とにかく、しばらくテメェとは会わねぇ。邪魔したな」
また出て行こうとする土方を銀時がまた止めた。
「会わないなんて駄目―。許せるわけねーだろ」
「このクソ天パ……!!」
ぎり、と睨みつけてくる土方に、銀時は言った。
「俺が綺麗って言い続けたから綺麗になったってんなら、俺が男らしい、カッコいいって言い続ければいいだろ? それで解決だ」
「む……?」
「催眠術的な何かにかかっちまってるんだったら解除しなきゃならねーじゃん。一人でいても男らしくなれるとは限らないじゃん。だから逆の催眠術を掛ければ解決するだろ?」
長い長い沈黙が続く。
土方は俯いて、ぽつりとつぶやいた。
「……………………そうかもな」
いよっしゃぁ! 銀時は思わず拳を握ってしまう所だった。
「またここに来るよな?」
土方はやや間を置きながらも、「あぁ」と答えた。
「だが、綺麗だの可愛いだの、トチ狂ったこと抜かしやがったら即帰る」
「はーいはい、肝に銘じておきますよー。カッコいい土方クン。茶でも飲んでいけよ」
どうにか口先三寸で丸めこんで部屋にあがらせる。
(逆効果だったなー沖田クン)
銀時と土方を別れさせようと手を変え品を変えている男に心の底で悪態をついた。
一時といえども手放すつもりはない。
しかし、相手は土方を長年知っているだけあって、類稀な強敵だというのもまた事実だった。
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