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ついさっきまで近藤さんと総悟がいた。そう言うと、新八が頷いてため息をついた。安堵の色が滲んでいた。
「そうですか……。僕ら外に出てて良かったです……。神楽ちゃんと沖田さんが暴れたら、事務所無茶苦茶にされちゃいますからね」
暗く、はは、と笑いながらそう言う。
「こいつら、まだ仲が悪いのか?」
「えぇ。沖田さんとは街中でばったり会ったりするんですけど、ほとんど殺し合いかってぐらいに大ゲンカしてますよ。そういえば、土方さんとは花見の席以来ですね」
「あぁ、そうだな」
会話が切れた。
土方はもともと口数の多い方ではない。銀時や総悟と喧嘩をすれば次から次に言葉を吐き出しはするが、数時間沈黙していても苦にはならない。
だが新八は違う。妙に気を使いィの彼は、(ま、間が持たない……)と笑顔のまま硬直してしまう。
「そ、それにしてもあの時は大変でしたね。まさか桂さんがあんなメカで花見の席に乗り込んでくるなんて……。僕、無職戦隊ギンタマンの世界に入り込んじゃったかと驚いちゃいましたよ」
土方との共通の話題なんてあるはずもない新八は、花見の話題を振ったのをこれ幸いと話を拡げていく。
「あぁ」
しかし土方の返事はにべもない。また会話が途切れてしまう。新八にとっての助け船を出したのは神楽だった。
「お前、酔っ払って足元ふらふらで勝てもしないくせに巨大メカに突っ込んで行ってたネ。銀ちゃんがいなかったらお前なんてズラにパーンってされて、今頃マヨ臭いひき肉だったアル。ちゃんとお礼を銀ちゃんに言ったカ?」
内容は土方をけなすものでしかなかったが。
「か、神楽ちゃん言い過ぎだよ。でも、真選組の人たちも薄情ですよ。酔っ払った土方さんおいて皆逃げちゃうんだから……」
「人望アル。いざというとき助けてくれる人がいるかどうかでそいつの人望が推し図れるね。金が無くて首が回らなくなった時に、借金の保証人になってくれる人の有無で人生が決まるように、人は人との繋がりの強弱で人生の岐路が別たれるネ。親友と友達は多ければ多いほど役にたつってマミーが言ってたアル。だから新八、お前もトウコウキョヒとかやってないで、ちゃんと寺小屋に通うヨロシ」
「いや、僕、別に登校拒否してないから。寺小屋は辞めざるを得なかっただけだから」
常識外れてでかい犬を撫でながら神楽は続ける。
「ニコチンコはまるで駄目でおたんこなすな向こう見ず、略して「マダオ」アル。お前は人の上に立つ人間なんだから、鍛錬より何より、人を引き付ける魅力を身につけるのが先ね。真選組が大切なら、守りたいって部下に思わせる上司にならないとならないと駄目アル」
土方は何の反論もしなかった。いや、出来なかった。
真選組の中枢に立つ土方は、一般の隊士達から見ればまさしく真選組そのものだ。
自分への信頼の強弱で真選組への忠誠心が図れると言っても過言は無い。
近藤ならどうだろう。
近藤を守るために動く者は大勢いる。もちろん自分こそが筆頭だが、沖田、原田、それと――――。隊士の名前は尽きない。
桂が運転する巨大ロボに今にも踏みつぶされそうだったあの時、土方を守ろうとする者は一人もなかった。土方は絞り出すように吐き捨てた。
「小娘が利いた風な口聞いてんじゃねー。真選組は一塊で真選組なんだ。近藤さんはともかく、あの人以外の連中は上も下も関係なく真選組って組織の血であり肉だ。俺への忠誠なんざ必要ねぇんだよ」
「誰が小娘だコラァァ! テメェこそコムスコじゃねぇか! 下半身のコムスコに毛ェ生えてるか確認してやろうかァ!?」
「コムスコなのは天人の薬のせいだし、一時的なモンだっつってんだろうがコラァ! つか、下半身のコムスコって何のことだ!?」
「チンコだコラァ!」
「小娘がチンコっていうなァ! 恥じらいってもんがねぇのか!!」
立ち上がって喚く二人の間に、どん、と鍋が置かれた。銀時だ。
味噌汁の匂いがふわりと漂う。
土方はしゃがんだ銀色の頭に、条件反射的に拳を入れていた。
「あだッ。何すんの」
「お前、いちおう保護者としてこいつら預かってんだろうが! 妙齢間近の娘にチンコチンコ言わせてんじゃねぇ! ちゃんと作法とか行儀とか教えとけ!」
「いや、こいつは勝手にいついただけで、別に俺が面倒見てるってわけじゃないからね。神楽、新八、土方君と遊んでる暇があるなら盛りつけ手伝ってくれや」
「ラージャ」
「はい」
び、と敬礼して神楽が銀時についてき、新八も続いく。
「軍曹、おかずは摘み食いの方が美味いという法則をご存じでしょうか!?」
「神楽二等兵、おかずはそれで全部だから、つまみ食いしたらテメェのおかずは無いと思え」
「大丈夫であります! 私が食べるのは志村三等兵の糧食であります!」
「ちょっとぉぉ! やめてよ神楽ちゃん! 当たり前のように僕のおかずに手ェ伸ばさないで!」
台所からの声と賑やかな気配に、土方は食客だった道場での生活を思い出して頬を緩めた。
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