歌舞伎町の一角に、万事屋がある。

 宣伝もしていない、店の存在を示すものと言えば階段の上り口につり下げられた「万事屋土方」という小さな看板だけだ。
 達筆な筆書きではあるが、夜にはその下で光るスナックの電飾看板に存在をかき消される些細な存在感しかない。

 だが、この店にはひっきりなしに依頼が入っていた。
 仕事が丁寧で確かで、自らも仕事をこなす社長が誠実を絵に描いたような男なので、宣伝をしなくとも常連と口コミだけで充分に依頼が舞い込んでいた。

 従業員はたったの二人。
 志村新八。道場再建のために日々粉骨している青年だ。
 道場を借金のカタに抑えられてしまったが、じき返済が終わる。
 が、道場を取り戻した後も万事屋を辞めるつもりはなかった。出勤日数は減ってしまうだろうけど、万事屋も道場も両立させると今から張りきっている。

 もう一人は夜兎の神楽だ。土方の事務所兼自宅に居候している。
 まだ子ども、とはいえ女性だ。夕食は土方と一緒に取るものの夜になれば下に住む大宅、お登勢の家で寝泊まりしていた。
 登勢は「気を使いなさんな」と言ってくれるが、神楽を預かってもらう分家賃に色を付けていた。もちろん滞納などもってのほかだ。


 多数の依頼を切り盛りしている社長の名前は、土方十四郎といった。








 背後に視線をやったまま必死に走ってくる万事屋社長、土方十四郎を見て、真選組副長坂田銀時は破顔した。

「あ、トシ君だ! トシくーん」

 どんよりと濁った眼を煌めかせて万事屋を呼ぶ。
 荒事から書類作業まで難なくこなし、仕事が引きも切らずに日々忙しく働いている売れっ子万事屋の社長は、だらだら仕事をしている銀髪を見るだけで顔を顰めていた。
 公僕のくせにその不真面目さはなんだ、目に余る!と説教をかましてくるのも珍しくはない。

 それなのに、銀時を黒色の瞳が移した途端、端正な顔に喜色が広がった。
 


「クソ天パ……! 頼む、俺と付き合ってくれ……!!」


 肩を掴まれ至近距離でそう言われ、銀時が笑顔のまま停止した。

 銀時は手を変え品を変え何十回となく土方にアタックし続けていた。
 局長はキャバ嬢のストーカーで副長は万事屋のストーカーという二重苦で隊士達を苦しめながらも諦めずにことあるごとに
「開くといえばいつトシ君は股を開いてくれますか」とか
 巨大犬を散歩させる土方をダックスフンド(なんとかというやくざの愛犬をさらってきた)を連れて待ち伏せ、
「うちの犬とその犬で一発どーっすか。ついでに俺らも一発いっとかない?」とか
 知的生物とはとても思えない誘い文句をぶつけてきた。

 もちろん振られ続けだ。
 手を握るどころかお友達にさえして貰えず、銀時を飛び越え近藤に懐きまくってしまった土方を見て、本気でゴリラ暗殺を企てそうになったぐらいだ。

 
 ようやく想いが通じたか!!

 長かったけど、手に入れられた喜びを思えば苦ではない。

「ちょ、総悟、大至急式場予約ゥゥゥゥ!!! ゴリラに仲人頼んでととっつぁんに人集めて貰ってェェエ!!」
 土方の首に片腕を回し胸に抱きしめながら、一緒にパトロールをしていた総悟に叫ぶ。


「旦那落ちついてくだせぇ、クソ天パって呼ばれてますぜ」

 総悟が冷静に突っ込みを入れる。
 言葉だけ聞けば土方のセリフは告白だったが、告白する相手をクソと呼ぶなんてありえない。
「誰がテメェと結婚するっつったぁ!? 寝言だとしてもきしょいわボケがァァ!!」
 強烈なエルボーが銀時の顎に入って吹っ飛ばされる。

「えええ、違ェの!? 何この悲しいぬかよろこび! いや待てよ。トシ君はシャイなあんちきしょうなんだから公園でのデートからゆっくりと段取りを踏んで行かなきゃなぁ。
でも銀さんの息子がいい加減限界なんで、夜の段取りは大人の階段から始めてもいいでしょうか!?」
「お前に息子がいたのか? まっとうに育ててやってんだろうな」
「やめてその切り返し。真剣に問い返されると悲しすぎる」
 シャイなあんちきしょうは思考回路もシャイなので下ネタを字面そのままに受け取り切り返してくる。地味にダメージを受けて銀時ががっくりとうなだれる。

「土方さん、なんだってまたうちの副長なんかと付き合う気になったんですかい?」
 なんかって言った? 今なんかって言ったかコノヤロー? そう銀時に胸倉を掴まれても平気な顔のまま土方を見る。

「実は……」
「十四郎クゥン!」

 土方に水色の髪の女が抱きついて、銀時が全身の毛を逆立てた。

「さっちゃんから逃げられると思ったら大間違いだゾ★ さっちゃんは忍者なんだから、十四郎クンの気配をたどってどこまでも追っていけるんだから。
 さぁ帰りましょう、二人の愛の巣へ!」
「愛の巣なんかねェェ! つかいい加減にしろよこのドM女! 迷惑だっつってんのがわかんねーのか!」
「またまたぁ。そんな言葉で私が引きさがるとでも思ってんの? 言葉攻めにしては、棘が足りて居ないわ。もっと罵倒して。もっと強い痛みで私を気持良くして!」

「てんめぇ、俺のトシ君に触るんじゃねぇぇぇ!!」

 女相手だというのに銀時が容赦無く蹴りを繰り出す。
 が、相手も忍者というだけあって、軽くかわした。

「何この男。いきなり蹴り付けようとしてくるなんてどういうつもり? 面識すらないのに、初めての顔合わせで痛みを伴う行為をするだなんて……そんなの……そんなの……。
 萌えるじゃないの――――!!」

 ばッ、と服を脱いで過激なボンテージ姿となる。
 土方は今だ!! と言わんばかりの勢いで、彼女の鼻先にスプレーを振りかけた。
「うッ……」
 クロロフォルム系の溶剤だったのだろう。小さく呻いたさっちゃんの膝が折れる。完全に眠ってしまっていた。
 倒れ込む前に支えて、そっと地面に横たえて、ぶるぶる震えながら土方は銀時の後ろに隠れた。

「トシ君、何なんだよこの女」
 小動物みたいに震える土方に一も二も無く飛び付いて草はらに押し倒してしまいたい衝動を堪えながら、銀時がそう詰め寄る。

「元依頼主なんだが……俺が好きだとか結婚しろとか言ってきて……。何もした覚え無いのに、こいつに触ってさえいないのに一人で盛り上がって追いかけまわされてるんだ」
 よっぽど疲れているんだろう。全身で脱力してぐったりとうなだれる。

「はぁぁ? ストーカーかよ。最低じゃねぇか」
 自分もストーカーだということを軽く棚に挙げて罵る。

「旦那と付き合おうとした理由はこの女ってわけですかィ?」
「あ、あぁ……。偽の彼女を作って追い払おうと思ったんだが、こいつ、元御庭番集だから、そこらの女を彼女にしたら始末されちまいそうだし、
 妙は強いから頼もうかとも思ったが、演技とは言え近藤さんのおもいびとを彼女と呼ぶのも気が引けてな……。
 とにかく逃げてたら、天パが目についたから……。お前だったらあの女にやられはしないだろ? 俺の恋人になってくれ」
「オーケーィ我が命に代えても」
 がっしりと手を掴んで瞳を煌めかせる。
「いいように利用されてますぜ旦那」
 しかし今まで銀時が土方にしでかした事の迷惑料だと考えれば安いぐらいだ。
 総悟はそれ以上口出しをしなかった。

「とにかく、この女は縛り上げてそこらに転がしとこうぜ」
 どこから取り出したのか縄を手にしてぴん、と引っ張る。
 その縄は、土方を捕らえるためにいつも持ち歩いているのだということを総悟だけが知っていた。

「あ、待て……」

 土方は止めようと腕を伸ばすが、それよりも銀時が女を縛り上げるのが早かった。目にも止まらぬ早業だ。

 女がぼんやりと目を開いた。
 大柄の男でも二時間は目を覚まさない薬だというのにほんの数分で意識を取り戻すなんて、腐っても忍者という所か。

「……」
 自分を足で踏みつけ、結び目を固くしている銀時を見上げ――――。



 眼鏡の下の目元が真っ赤に染まった。


「なっ――――、この胸の高鳴りはなに!? 私は十四郎クンの蔑んだ視線が忘れられなくて追ってきたというのに……、
 貴方、何者!?」
「真選組の副長やってる、銀さんっていいまァす。十四郎クンは俺のモンだからね。手ェ出したら容赦しねぇぞ変態女」
 まだ手を出していないはずなのに、縛りあげられ皮靴で踏まれている。
 その痛みに女は恍惚とした表情をした。

「あぁん、いくらお願いしても十四郎クンはここまでしてくれなかったのに、簡単に禁断の扉をこじ開いてくるなんて、素敵……!
 もっと、もっと強く私をいじめてェェェ(ハート」

「ウゼっ。おい総悟、お前好みの女じゃねーか。やるから連れてけ」
 フナムシでも踏んだみたいにのけぞって女から数歩離れる。
「いりません。俺ゃ嫌がる人間に無理やりやるのが燃える達でして」
 土方がげんなりと項垂れた。
「真選組ってまともな隊士いねぇのな」

 男どもがこそこそと話す中、女――、さっちゃんは、後ろ手に縛られているのに足を一振りして器用に立ち上がる。

 ずいっと土方に詰め寄る。
「ごめんなさい十四郎クン、あなたが一番だと思っていたのに、今はこんなに心が揺らいでいる……。気持ちの整理がつかないから今日は引き下がるわ……」

「あ、あぁ」

 さっちゃんは顔を赤く染め、もじもじと肩を上下させて銀時を向いた。

「銀さん……、初対面で私をここまで夢中にさせるなんて罪な人……。この代償は支払ってもらうんだから☆ 覚悟しとけよコノヤロゥ★」

 ボンテージ姿で縛られたまま、通行人をドンビキさせながらさっちゃんは走り去って行った。


 土方は茫然とその後姿を見守った。が、すぐに銀時を振り返る。
 珍しく全開の笑顔だった。

「お前でもたまには役に立つことあるじゃねーか! お前とあの女、変態同士すげぇお似合いだぞ。影ながら応援させて貰う。んじゃ、幸せになれよ!」
 あ、恋人関係は解消な。
 仕事が忙しいのだろう。携帯で時間を確認した土方はさっさと踵を返してしまった。


「そ、それは無いよね……!!」
 厄介な女を押し付けられた挙句、好きな子に他者との恋愛を応援すると言われて、尚且つ告白から数分で振られてしまい、流石の銀時も茫然自失とするしかなかった。






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大好きなパロの一つなんですけど相も変わらずアレな出来に!
トシさん万事屋バージョンは公式グッズにもあるのに、なかなか見なくて寂しいです……
もっともっと増えますようにィィ