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銀時が逃げ出した頃。屯所では。
「トシ! 俺、何になった!?」
近藤が必死な様子で土方に聞く。
土方は一瞬確認しただけで、近藤と目を合わさないようそっぽ向いた。
予想にたがわず期待を裏切らず、ゴリはゴリに変化していた。
ただでさえ毛深い彼だが、もみあげから顎、それどころか首や手の甲まで、地肌が見えないぐらいの真っ黒の剛毛に覆われている。
「何で目をそらすの、トシ! ちゃんとお父さんの目を見て答えなさい」
「いや……、その、あんたはどんな姿になっても俺の大将だから」
「だから、目を見て答えなさいって!」
「土方さーん」
黒い笑みを滲ませた総悟の声。いつもだったら瞬時に身構えてしまうが、この時ばかりは救いの声に聞こえた。
「総悟、チワワにはなれたの、か……ッて、おま!」
「百獣の王ですぜィ」
寝癖さえつきにくい総悟の頑固な直毛がふわりと広がっていた。
尻尾は尾の先だけに毛が生えている。間違えなくライオンだ。
「なんで……テメェがライオンなんか……!」
百獣の王とは近藤にこそふさわしい動物のはずなのに、その部下である総悟がライオンに変化するなどおごがましいにも程がある。
だが、総悟の気質は唯我独尊で、そのうえ他者をねじふせる身体能力も持っている。確かにライオンの気質に相応しい男だった。
「百獣の王としてあんたに命令しまさァ。俺の言うなりになっちまえィ」
総悟の掌を掌で押さえる。指を絡めた状態で、総悟は押し倒そうと、土方は押し返そうとしてぎりぎりとにらみ合う。
「俺に命令できんのはゴリさんだけなんだよ! ゴリラは森の聖者であり森の賢者だ。ライオンは百獣の王だろうが、ゴリラはそんな生き物達に助言する影の支配者的生き物だからな!」
「トシ、ありがとう……!!!」
フォロ方十四フォローの言葉に感激して近藤が後ろから抱きつく。
土方は普段誰も傍に寄せつけない冷たいオーラを放ちまくっている。切れ長の目から放たれる拒絶の効果は絶大で、よほど勇気のある人間でないと近づけない。そのせいで、土方は人のぬくもりに慣れていない。
驚いた土方の腕から力が抜けて、近藤と総悟のサンドイッチ状態になってしまう。
「総悟、離せ……! 近藤さんも落ちつけってば!」
じたばた暴れる土方だったが、ぴろりろ〜んと気の抜ける音に顔を上げる。
犬耳――黒柴の小さな三角耳をつけた山崎が携帯をこちらに向けていた。
今の音は間違えなく撮影音だった。しかも、レンズは土方を向いていたようだ。
「てめぇ、何勝手に撮ってやがんだ!」
土方はそう怒鳴って立ち上がろうとするが、総悟と近藤に抱きつかれたままだったので数センチ浮いただけですぐに近藤に背中を預けてしまう。
「土方副長」
逆方向から呼ばれて、「あぁ?」と柄の悪い返事をしながら視線を向ける。
十数人にも上る隊士達が携帯を土方に向けていた。
ピロリロリーン、カシャ、ピンポーン、ピッピドウ。さまざまなシャッター音が上がる。
「……てめぇら、何してやがる」
「いや、ちょっと、写メを」
「無様に押しつぶされている俺を外周りの連中に広めようっつーのか!?」
畜生……! と歯を食いしばるがもちろんそうではない。
慌てて訂正しようとする隊士より先に、両手がふさがっているので歯で隊服の襟を開こうとしていた総悟が答えた。
「何いってんですかい土方さん。あんた、自分が何に変わったか自覚したがいいですぜ」
「俺が……?」
「トシは黒豹になってるからなぁ。カッコいい姿を残しておきたいんだろ」
近藤の大きな掌に頭を撫でられてほんわかと和んでしまうが、こんな状態では近藤の評価はまず間違っている。
「原田、俺は何になってるんだ?」
土方は愛想がないし暴力的だ。二十●歳になるのにいまだ親友と呼べる友達はいない。そもそも友達さえいない。真選組の連中とも「仕事上のお付き合い」でしかないのだが、たった一人、食事をしたり映画を見たりする隊士がいた。それが原田だ。
他の隊士に交じって携帯を向けていた、はげ頭にクマの耳を付けた原田が目を泳がせて答えた。
「その、あの…………、た、たぶん、猫じゃねぇかな?」
土方の思考が真っ白になった。
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