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数日後。
土方は総悟と二人でパトロールをしていた。が、いつものように総悟は姿を消してしまっていた。
いつもの事過ぎて探すのも煩わしく、土方は一人巡回を続ける。
その足が砂を掻いて止まった。
正面に見慣れた二人組を見つけたのだ。
銀髪の男と、男に腕を絡ませて笑うポニーテールの女。
銀時とお妙だった。
話に夢中になっているのだろう。楽しげに笑いながら、二人は土方に気が付きもしないままにこちらに歩み寄っていた。
「万事屋……っ、テメェ!」
「あ?」
銀時が顔を上げる。憎たらしいことに土方を見ても顔色一つ変えなかった。慌てもしない。
「昨日、あれだけ否定しておきながらやっぱりその女と付き合ってんじゃねぇかよ」
ゆら、と剣を抜いて切っ先を銀時に向けた。
銀時は両掌を土方に向けて、怯えたように一歩下がった。
「ちょ、いきなり何なんだ! 誰だよアンタ! 俺が何かしましたかァァァ!?」
「誰だ、だと?」
女の前だからだろうか。そしらぬ振りを決め込もうとする銀時に、土方の怒りのパロメーターがレッドゾーンにまで振り切ってしまう。
「もういい。そこになおれ万事屋! テメェをこの世という枷から解き放ってやらァァ!!」
「ふっざけんなコノヤロー――――――!!!」
今にも剣を振りおろそうとした矢先、体の側面を蹴られて土方が横に滑った。
正面の男に攻撃を仕掛けようとしていたせいで、防御も出来ずにもろに食らってしまう。
体制を整え振り返る。そこに立っていたのは銀時だった。
「……!!? 万事屋が、二人……!!?」
女を連れた銀時と、蹴りを入れてきた銀時を交互に見て、土方が驚きに叫ぶ。
そんな土方を前に、蹴りをいれた方の銀時は、額に血管を幾筋も浮かべ、憤怒やるかたなしといった表情で指を突き付けて怒鳴った。
「てんめぇぇぇぇ俺とこいつのどこが似てんだよ! 天パか!? 天パのせいか!? お前ひょっとして、髪だけで銀さんを識別してたのかよ! そりゃねぇよ! 顔見て! 俺の顔ちゃんと見てェェ!」
「……!??」
泡食ったように土方は二人の銀時を見比べていたが、納得したように「あぁ、そうか」と呟くと、女を連れた銀時に向かい頭を下げた。
「ひょっとして、坂田さんの弟さんっすか? お兄さんにはいつも世話をして……いやいや、お世話になってます。僕、土方十四郎っていいます」
「ちげえええええ!! ぶっ殺すぞこらアアアアア」
ニセ銀時は、銀髪の上銀時と全く同じ格好をしてはいるが、ごつい顎とやぶにらみの目で紛れもなくブオトコに分類される男だ。銀時はさりげに自分の容姿に自信があった。歌舞伎町の全男性から算出して、紛れもなく下から何番目になるだろう男と同列に扱われるなど不本意もはなはだしい。
「旦那ァ!!」
聞きなれた声がした。
道の向こうからドエス王子が小走りに駆けてくる。
「この街で姐さんと腕組んで歩くなんて真似してもらっちゃあ困りますぜ! 近藤さんに見つかったら面倒事になっちまうのが目に見えてるでしょうが」
もちろん王子が「旦那」と呼びかけたのはニセ銀時に向かってだ。
「旦那こっちィィィィ!!!」
「あれ? 旦那が二人……? こりゃあ一体どういうことですかィ土方さん」
「俺にもさっぱりだ」
「俺のほうがさっぱりだってのオオ! お前らそれでも警官!? どんだけ人の顔の見分けがついてねぇんだよ!」
「あら、珍しい取り合わせだこと」
背後からこれまた聞きなれた声がした。お妙だ。
驚きの声を上げようとした土方と総悟の口を、銀時の大きな掌が塞いだ。
「よ、よー、お妙。買い物かよ」
「ええ。これから晩御飯の支度もするの。よかったら銀さんも一緒にどうですか?」
たまごばかりが三パックも入った袋を目の高さまで上げてふわりと笑む。
「いやー、気持ちは嬉しいけどぉ、俺、このバカ二人と込み入った話があっから。また今度誘ってくれや」
「そう……残念ね。それじゃ、失礼します、土方さん、沖田さん」
ぺこりと頭を下げてお妙は通りすがっていった。
「何しやがる、万事屋! つか誰がバカだ!」
「窒息するかと思いやしたぜ」
二人のスカーフを掴んで息が吹きかかるぐらい近くまで引き寄せ、小声で怒鳴る。
「うっせェェ、命の恩人になってやったんだからありがたく思いやがれ! テメェら、さっきと同じノリで「お妙が二人ィ?」とかいうつもりだったろ? あのな、お妙は自分の容姿に絶対の自信をもってんだよ! あのブタ子ちゃんと似てるなんて口の端にでも載せようもんなら、まっちがえなく八つ裂きにされてたぞ!!」
「でも、そっくりだったじゃありやせんかィ」
「全くだ。あれだけ似てんだ。別に気ィ悪くすることもなかったんじゃねぇか?」
再び、銀時の頭にびきびきと血管が浮いた。
土方は、オヴェー争奪戦の際、桂が変身した似ても似つかぬ鞠男を鞠男だと信じ込み、握手を求めていた。
総悟に至っては、エリザベスが扮した鞠男を鞠男だと言って譲らなかった。
目が節穴だからこそ助かったこともあったが――――。
「まぁいい。沖田君の目が節穴だろうが尻の穴だろうがどうだって構やしねぇ。問題は――――」
どん、と二人を突き飛ばして、ニセ銀時の前に立ちはだかる。
「おいコラ、テメェ。銀髪の上に格好まで俺と同じってどういうことだァ!? 嘘・大げさ・紛らわしいすぎるんだよ。ジャロに訴えますよ!! 脱げ! 今すぐこの服脱げェェ! 今度この格好しやがったら、その見苦しいテンパ――いや、テンパは見苦しくないけど、とにかく、その髪に火ィつけてこんがりアフロにしてやるから覚悟しときやがれえええ!!」
白の着流しを引っ張って剥ぎ、男の顔面に叩きつけて怒鳴る。
ニセ銀時は目を白黒させながらも、女と二人で逃げて行った。あの様子なら、二度と紛らわしい格好で徘徊することもないだろう。
土方は完全にあの男を銀時だと思い込んでいた。
容姿に惑わされない――といえば聞こえはいいが、格好に騙されてひょこひょこ付いていかない保証はない。
瞳孔の開いたチンピラの癖に、土方は男の劣情を煽る節がある。
相手を銀時だと信じ込んでいるのだから、そこらのホテルに連れ込まれても抵抗もしないまま組み伏せられてしまうだろう。
危険の種は芽吹く前に積んでおく必要がある。
「こっちはこれでヨシ、と……。沖田君、土方借りて行くぜ」
「へーい。料金はんまい棒明太子味でさぁ」
やっす! 俺やっす! と見当違いの方向に騒ぐ土方を無理やり引っ張っていく。
後は土方に銀時の顔をしっかりと覚えこませるだけ。
行為の最中、土方は恥ずかしげに眼を逸らしたり顔を背けてしまう。今日はそれを許さず、少しでも目を逸らそうもんなら容赦なく苛め倒してしまおう。
銀時ははりきりつつ、一番近場のホテルへと土方を引っ張り込んだのだった。
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