「万事屋、いい歳してジャンプばっか読んでんじゃねぇ。たまにはこういう本も読みやがれ」

 ここは万事屋の銀時の部屋。
 部屋の主の前に立つのは恋人である土方十四郎だ。

 上にも下にも問題児を抱え一人奔走しなければならない彼は滅多に休みを取れない。
 ここへきたのも、というか、顔を合わせるのも二週間ぶりだった。

 ふすま一枚隔てた向こうでは、神楽と新八が夕食の準備をしている。それは判っているのだが、銀時はとにかく土方に触れたくてたまらなかった。それなのに、恋人はというと、顔を合わせた途端銀時の鼻先に本を押し付けたのだった。

 分厚い小説だった。受け取りはしたものの、銀時は普段でさえけだるげな目を更に細めた。
 題名すら確認しないで嫌な顔をする。

「ジャンプバカにすんじゃねぇぞ。童話しかり漫画しかり、子供向けの本ってのは意外と世の中の矛盾をわかりやすく暴いてたりするんだからな」
「わかりやすさに甘えんじゃねぇ。てめぇの歳なら分かりにくい作品の中から自分の意見を産み出していくもんだろ」

 銀時は土方の返事を聞いていなかった。
 ジャンプの二分の一ほどの大きさしかないくせに、厚さはジャンプと変わらない文庫本に驚愕する。

「おいおい、小説って厚さじゃねぇぞコレェ。ちょっとした小物入れじゃねえか」
「こんぐらい一日ありゃ読める。どうせ暇してんだろうが。たまにはこういった本で教養を得ろっつーの」

 銀時は受け取った本を灰皿の上にポン、と乗せた。

「これ、昔のダチから貰ったんだけどよぉ。どんだけの威力か試したこと無かったんだよね〜」
 テーブルの端に置いていた小瓶。中にはビー玉よりも小さな小玉が入っていた。
 本の上に一粒だけぽつりと乗せる。途端に火柱が上がった。

 灰皿の上で本はみるみる灰になっていく。

「おおお、すっげぇ。意外と威力あるじゃん。さすが天人の作った薬」

 銀時は面白そうに掌を額にかざす、が。

「てンめぇぇぇ!! 人の好意になんて真似しやがる!!!」

 渡した本を灰にされて土方が怒らないわけもなく、銀時の後頭部に強烈な一撃が落ちた。

「ああん!? てめぇの趣味無理やり押し付けてきて好意とか言いますか?」
「押し付けでもしねぇとオメェの頭ん中はいつまでたっても中二のまんまだろうがよ! 年相応に成長できねぇ大人なんてもはや悪の領域だっつーの!!」
「んなことありません〜個性ですゥ〜」
「個性で済まされる段階までレベルアップしてからほざきやがれェェ!!」




「土方さん、銀さん、ご飯ができま――――」
 夕食を作っていた新八が呼びに来た頃、二人は狭い部屋の中で殴り合いを繰り広げていた。

 罵詈雑言を吐きながら殴りあう二人に、深く溜息をつく。

 新八の横から神楽がひょこりと顔を覗かせた。

「また喧嘩してるアルか」
「うん……」


 食事を済ませたら、神楽と新八は万事屋を出て志村道場に帰ることになっていた。
 土方は明日休みだ。何週間ぶりかでやっと取れた休みで、久しぶりにゆっくり恋人同士で過ごせるというのに、なぜ喧嘩をするのか。


「何でこうも毎回毎回喧嘩できるのか不思議アル。新八、やっぱりあの薬使ってみるアル」
「そうだね……」
 新八は踵を返した。

 並べていたおかずにさらりと振りかける。
 
 薬がおかずに溶けたのを見計らい、ふすまの間に立っていた神楽が二人に声をかけた。
「銀ちゃん、ニコ中、メシできたアル。さっさと手ェ洗ってくるヨロシ」
「誰がニコ中だ! つか娘がメシって言うんじゃねぇ、ご飯ってちゃんといえ!」
「うるさいネ。ほら、とっとと行くアルよ」

 二人は狭い廊下を競うように洗い場へ行き、肩で押し合いつつ手を洗ってまたにらみ合ったまま戻ってくる。

 食事は事務所兼リビングのテーブルで取る。銀時、土方は新八と神楽の向かいに座り、茶碗を取り上げるものの、お互いを見ないように、ソファの肘掛側に膝を剥けて座っている。することが小学生並みだ。






「それじゃ、僕ら帰りますね。土方さん、銀さん、おやすみなさい」
「喧嘩しちゃ駄目あるヨ?」

 食事の後、神楽と新八は洗い物を済ませ食器を片付けて玄関のたたきに立った。
 喧嘩をしているといえども、子供二人に対してあらわにするほど大人げなくはない。
 とりあえず並んで見送りはしたが、引き戸が閉められると一言も口をきこうとはしなかった。

 いや、お互い謝りたいのだけど、お互い意地っ張りなせいでできない。
 後を引かない性格だから、翌朝になれば仏頂面ながらもお互い挨拶をして、食事をともにするのだと知っていたけどそれでも今は無理だった。

 銀時は自室に、土方は神楽の押入れのある部屋に布団を敷いて横になる。


 苛立ちと、大きな後悔を胸に抱えながら、二人は布団の中で息を殺していた。


 いつもだと喧嘩をした日は数時間も眠れないのだが、疲れていたのだろうか、すぐに睡魔が襲ってきた。


 



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