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「副長をお止しろーーーー!!」
屯所に残っていたほぼ全員が駆けつけ、走りだそうとする土方にしがみついたり、手を広げて行く手を塞いだ。
「どけっつってんだろぉがァァ!!」
どーん!
しがみついていた隊士が三人まとめて吹っ飛ばされる。
相手は鬼の副長だ。人海戦術程度で勝てる相手ではない
「俺たちじゃ太刀打ちできねぇ。誰か隊長を呼んで来い、沖田隊長に止めて貰うっきゃねぇ!!」
吹っ飛ばされた三人にかわり山崎が土方の腰にしがみついて、同じくしがみついた隊士にそう言った。
「その沖田さんもどこにいるかわかんねぇんだよ!!」
「またサボりかァァァァァ――――!!」
どいつもこいつも給料泥棒ばかりだ。だから土方に多大な負担がかかって乱心する羽目になってしまうのだ。
「どけぇぇぇ!!」
どーん!
山崎以下二人の隊士がひとまとめに宙に蹴りあげられた。
ついでに屯所の門まで蹴り破ってしまう。
「やッべぇ、突破された!!」
攘夷志士の隠れ家に突入した時と同じぐらいの緊迫した声が上がった。
刀を片手に持ち、うおおおおおと雄たけびをあげて走る土方を十人単位の隊士が追って行く。
「副長、お気を確かに――――!!」
「気は確かなんだよ!! 大将を不甲斐なくしちまったのは俺の責任だ! 責任とってかっちりあの世へ送って、俺自身も責任取ってかっちりあの世へ逝ってやらァァァ!!」
「副長――――――!!」
どうする!? どうやって止める!?
攘夷志士の隠れ家に乗り込む時は土方が作戦を立ててくれる。きめ細かな動きまでフォローが入る。作戦通りに事が運ばなくとも、その場で飛んでくる命令さえ聞いていればよかった。が、今回捉えなければならない男はその土方だ。誰も作戦を立ててはくれないし命令も下してくれない。自分たちでどうにか対応しなければならない。
必死に頭を働かせるが、もともと体育会系の連中ばかりだ。錆ついた頭では妙案など浮かんではこない。
ここまでか。山崎は走りながら歯をきつく食いしばった。
「はいはーい、ストーップ。こっから通行止めでぃーす」
白の着流しをはおった男がふざけた声を出して両の掌を土方に向けた。
銀時だ。
「どうしちゃったの公道で刀なんか出しちゃってぇ」
二車線道路にできるほど幅のある道だ。
銀時はど真ん中に立ってはいるが、右も左も通り抜けられる広さがある。
だが土方は足を止めていた。山崎が驚きに目を見開く。本人達は――というより土方だけは――必死に隠しているが、二人が恋仲だということは周知の事実だった。
頭に血が昇っていようとも、恋人の言う事はきいてしまうのだろう……と一瞬だけ思った。すぐに否定した。
土方からは皮膚に痺れが走るぐらいの殺気が迸り銀時に向けられていた。
土方を押さえる絶好の機会なのだが飛びかかることができない。そんなことをすれば間違いなく切られる。
逃げるように数歩下がって、土方が足を止めた理由を知った。
銀時にはまるで隙がなかった。歴戦で積んできた経験が警告する。どちらに走り込もうと確実に止められる、と。
「テメェにゃ関係ねぇ。そこをどけ万事屋」
真剣の切っ先が向けられるのに、銀時はひょうひょうとしたものだった。
「まぁまぁ落ち着いて。目が血走っちゃって、ただでさえチンピラなのに更にやくざ幹部までグレードアップしちまってるぜ? 警官なんだから一般市民を驚かすんじゃねぇよ」
山崎は銀時に叫んだ。
「だ、旦那、土方さんを止めてください! 局長殺して自分も死ぬとか言って止まらないんです!」
重たくかぶさっている銀時の瞼が見開かれた。
「はぁぁぁ? ゴリラと心中するなんてどういうつもり? 痴情のもつれって奴ゥ? 恋人の銀さん差し置いてそりゃねぇよ」
二人はそろそろ年単位の付き合いに突入しているのに、今だに土方には照れがあり、隊士の前で関係を臭わせれば真っ赤になって否定するというのに、銀時の言葉にまるで頓着しなかった。
「うるせぇ。そのふざけた話し方をやめやがれ」
「あぁん? べーっつにふざけてねぇって。そう怒らないでよ、大串くーん」
ぶちん、と土方の中で何かが切れた。
「ぶッ殺す!!!」
容赦無く刀を銀時に振りかぶるが、銀時は木刀を逆さに構えて土方の刀を斜めにそらした。
土方に姿勢を戻す暇を与えず間合いを詰め、柄の底で土方の腹に重たい一撃を入れる。
「ぐ……ッ……」
小さく呻いて土方の手から刀が落ちる。いつもより三割増に瞳孔が開いた眼が銀時を睨みつけ――――るのも束の間で、膝がかくりと折れ銀時の腕の中に倒れ込んだ。
「ふ、副長……!?」
驚きに駆け寄ろうとする隊士達を一睨みで止めて、銀時は失神した土方を横抱きに抱え上げる。ここのところ忙しいからと屯所に寄せつけてもくれなかった恋人はまた痩せてしまっていた。
「まーったく、近藤と心中なんてさせるわけねぇっての。おいジミー」
「は、はい」
「こいつ万事屋に連れてくから」
「でも……」
「目ぇ覚ました後も頭に血上りっぱなしだったら、テメェらじゃ止めらんねぇだろ。おまけに屯所は火器類も刃物も多いだろ? うちはこいつの刀と包丁さえ隠しとけばゴリラ殺せるような武器は無くなるんだよ」
山崎はしばし考え込んだが、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
銀時の姿が遠くなってからようやく、茫然自失から抜け出した隊士が立ちつくしていたままぽつりと呟いた。
「あん人、マジで強ぇんだな……」
スズメバチに立ち向かうミツバチさながらに人海戦術でがんばったのに土方を止められなかった。なのに銀時は一撃で土方を止めてみせた。
「あれが攘夷戦争の英雄白夜叉の力だよ。はい、解散! 将来旦那が敵に回っても打ち取れるように、全員鍛錬を怠らないように!」
山崎がぱん、と手を叩いて促す。隊士達は踵を返し屯所へと戻って行った。
山崎も彼らと一緒に屯所へ戻り、山と積まれた書類作業へと戻りたかったのだが、先に寄るべき所ができた。
重い足を無理やり進める。向かう先はもちろん、志村家だった。
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