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「銀時様ぁああん」
甘ったれたような女の声が呼んだ名前に、なじみの団子屋の店先で休憩を取っていた土方は口に含んでいたお茶を噴き出しそうになった。
「あーもう! くっつくんじゃねぇ鬱陶しい! 銀さんこれから用事あるから! 邪魔すんじゃねーっての!」
聞きなれた低音の声が心底面倒くさそうに続いてくる。
「いっつもそれじゃありませんか! あちきの家に来てくれるって約束もしてくださったくせにすっぽかしてばっかりで! 女を待たせるのは殿方の特権ですけど、待ちくたびれさせる物ではありませんよ」
二度目の女の声。最初名前を呼んだ声とは別人の物だった。
(〜〜〜〜〜〜〜〜〜)
土方はお茶を噛みつぶして飲み込んだ。
自慢ではないが土方は女にもてる。が、土方の内面(主にマヨラー面)を知ると大抵の女が逃げていく。
外見で勝手に憧れられて内面で失望されて、土方を知ってまで残ってくれる女の数は、恐らく、そんじょそこらを歩いている一般の男並みだと思われる。
年間に百人から告白されようと、手元に残る数は一人いるかいないか。その程度というわけだ。
そんな人生を送っている内に女を信じないようになり、商売女で間に合わせるようになってしまった。
「愛なんて幻想。女なんて上っ面しか見てない」それが土方の信条だ。
が、銀時の傍にいる女は逆だった。
銀時の上っ面は
○ほぼ収入無し
○甲斐性無し
○賭けごと好き
○男のくせに異常な甘党
○トータルすると駄目人間。
こんなスペックだ。
これで大抵の女がドンビキするものの、銀時の内面を知ると自ら望んで銀時の後ろに付いていく。
銀時の、懐にいれた物を守ろうとする強い心――それに見合うだけの力量に女としての本能が抗えないのだろうか。
店先のベンチに座って茶を飲んでいた土方の前に、二人の女を引きづった銀時が現れた。
「ちょっとぉぉぉ何よあんたたち! 銀さんは私の彼氏なんだから、気安くくっ付かないでくれる!!」
どこから現れたのか、水色のロングヘアの女が銀時にくっついた女に向かってクナイを投げる。もとお庭番だった猿飛あやめだ。
暗殺術のエキスパートが一般人に向かってクナイなんて――と土方が慌てたのは一瞬だ。
「何が彼氏よ! 単なるストーカーのくせして!」
女は容易くクナイを弾き飛ばし、あやめとの距離を詰めて戦いを始めた。どうやら女も只者ではなかったらしい。
女たちは火花を飛ばしながら壁や電柱に飛び乗って戦いを繰り広げ、視界から消えて行った。
「ったくよぉ……」
独り取り残された、というか、ようやく解放された銀時は、後ろ頭に手をやって安堵したように言葉をもらした。
そして、
土方を見て酷く硬直した。
「――――――ちょ、違うからね、浮気じゃねえから! 今のは、あっちが勝手に――――」
土方が何も言ってないのに、往来でそんな事をのたまう銀時の口に団子を突っ込んで、無理やり顎を閉じさせた。
「うっせぇ黙れ何も言ってねぇだろ切り殺されたいのかよテメェ」
殺気を放つ土方相手にマヨたっぷりのみたらし団子をどうにか咀嚼ながら、銀時は首を振ったのだった。
「随分モテてるようじゃねぇか、万事屋」
「あー……、あれはモテてるとかいう甘い関係じゃねーっての。つり橋だよつり橋」
「つりばし?」
「つり橋理論っつーの、しらねぇ?」
「知ってる、が……」
土方の後ろ頭に銀時の手が回り、黒髪をくしゃくしゃとかき回した。
「だから気にすんな。あー、口ン中脂っぽい。おーいオヤジ、餡団子10本! 理由も聞かなかった罰として奢って貰うぜ、土方君」
「ん……」
ぐるぐる考え込んでいるのか、土方の返事は生返事だった。
並んで座り食べる。
銀時は手早く団子を食べ終わると、まだぐるぐるしている土方の腕を掴んで歩きだした。
隊服とはいえども、団子屋の店先にいるということは土方は休憩のはずだ。
団子を昼食の代わりにしているのだろう。
仕事が忙しくなるとまず食事時間を減らそうとする土方は銀時が目を離すとすぐに体重を減らす。
ここのところ真っ当な仕事が入っていたので、万事屋には余剰の米とおかずがあった。ちゃんとした食事を取らせてやろう。
会えたのも一週間ぶりだ。団子屋の店先で別れるのは惜しかった。
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