ずっと言うまいと思っていた。口に出すぐらいなら死んだ方がましだと思っていた。
 だけど思いは土方の中でどこまでも育ち続け、小さな人の体に収まるものではなくなった。

「すきだ、万事屋」

 大きくなりすぎた想いが土方にそんな言葉を口走らせた。



 自分の言ったことが信じられないとでもいうように土方は口を押さえて一歩下がる。
 顔を真っ赤にして、眼尻にうすらと涙を浮かべて。

 

 逃げだそうとした土方の手を銀時の掌が掴んだ。あくまで逃げようとする土方と捕らえようとする銀時。掴まれた腕がきし、と音を立て、土方は顔を歪めた。銀時はそんな彼を引っ張って胸に抱いた。腕から手は離れた。
 代わりに全身を捕らえられて、腕はきつくきつく土方の体を抱きしめた。


「よ、ろず、や」
「うん」

 いよいよ土方の顔は真っ赤に染まり、行き場を無くした腕は銀時の腕の下から肩へまわる。それは銀時を引き剥がそうとしているようだったが、指先は震えてとてもそんな力は出せそうにない。

「俺も、だ」

 銀時からそんな言葉がこぼれて、土方の目がくらんだ。
 ありえない。ありえない。騙すんじゃねぇ。こればっかりは洒落にならねぇ。
 心で怒鳴ったつもりだったけど口に出てたようで、銀時の腕には更に力が籠り、土方は肺から空気を絞られるみたいに、は、とため息をついた。

「信じろ」

 銀時が零す、たったそれだけの短い言葉に眩暈がした。







 二人はそうして恋人になった。

 道端で顔を合わせれば抜刀寸前まで罵り合うのも、花見や他の年中行事でうっかりと顔を合わせれば新撰組代表、万屋代表としてツノ突き合わせるのも変わりはなかったけど、

 土方は休みのたびに銀時を訪れ、銀時は騒ぎのない夜に屯所を訪れるのが日課となった。




 ぴんぽーん。
 玄関のチャイムが鳴って、神楽が笑顔になって駆け出す。新八も後を追った。
「いらっしゃーいアル」
「遅かったですね。何かあったんじゃないかって心配しました」
 玄関に立つのは着流しを纏った土方だ。
 手には不釣り合いなことにスーパーの袋をさげている。
「仕事が長引いちまったんでな……。悪ィ。腹減っただろ」
 そういって土方は袋を新八に渡した。この家に来る前には、夕食の買い物をしてくるのが慣例となっていた。この万事屋は常に財政難だ。土方が差し入れてやらないと三食菓子パンという生活も日常的にある。
「いえ! 責めてるわけじゃありませんから謝らないでください。ご飯を差し入れてくださるんだからむしろ感謝しています。そうじゃなくて、土方さんは危険と隣り合わせに生きてる人ですから、やっぱり心配しますよ」

 のそり、と事務所兼リビングから男が顔を出す。銀時だ。
「おー、おかえり」

 その言葉に土方が戸惑いを浮かべた。
「誰がお帰りだ。俺はここの家のもんじゃねーっての」
「ばっか、お前、お前と銀さんが恋人になった瞬間からこの家はお前の家でもあんの。そんくらいわかれっての」
「だぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜何いってやがる銀髪ィィ!!」
 条件反射的に土方は拳を振り上げているが、万事屋にとっても真選組にとっても銀時と土方が付き合い始めたということは公然の事実だった。
「そうアルな。今度から私もお帰り言うネ! 早く銀ちゃんと結婚して、私の第二のマミーになるヨロシ」
「誰がマミーだ!! じょーだんじゃねーぞ!」
「大串クンったら我儘だねぇ。しゃーねーから俺がマミーになってやる。こいつはパピィな、神楽」
「パピィか! 名案アル。もし私が学校に行き始めたとして、父兄参観にあの取り返しのつかないオヤジ呼ぶなんてことになったら、私間違えなく転校決定だったアル。恥ずかしくって二度と校門くぐれないネ。でもマヨなら胸張って自慢できるアル。 人妻からも注目間違えなしネ!」
「友達のお母さんを人妻いうな! この天パ! てめー子供になんて教育してやがる!」
「お前こそ銀髪だとか天パだとか髪に因んだ呼び方ばっかすんのやめてくんない!? 俺には銀時というありがたーい名前があるんだからね」
「にいってやがる! 「テメェ」だの「オイ」だの「お前」だの、どこのボケ老人かって呼び方しかしねぇお前にいわれたかーねぇぞ! 挙句の果てには「大串クン」だぁ? 一体誰なんだよそりゃぁよ!」

 顔を突き合わせて大ゲンカする二人。いつもこうだ。

 



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